ロミオ&ジュリエット

 現代風になって携帯のある世界でも、彼らはすれ違うのね…当たり前か…。

どこかの世界線で幸せになって…!と心から願った。

 

 ロミオとジュリエットの2人だけじゃなく、登場する人たちみんなどこかで幸せになっていて、と願わずにはいられない。

 特にティボルトなんて悲惨すぎるよね…。子供の頃から好きだったけど、一族の決まりを守るためその恋心を一心に隠して見守り続けてきたのに、突如現れた憎きモンタギュー家のロミオにあっさりと奪われるんだもん。その上、親友の仇という形でロミオに殺されてしまうなんて…。悲劇でしかない。どこか屈折していて、与える印象は“良いやつ”ではないかもしれないけど、彼は彼なりにキャピレット家のために生きていた。どこかで幸せを掴んでいてほしいな…。

 そのティボルトに殺されたマーキューシオ。彼は自分の意思を貫いて、自分の選んだ行動の結果死ぬのだから悲劇的ではないのかもと思えるけど、モンタギューとキャピレットという家の騒動に巻き込まれたという視点では一番象徴的な悲劇でもある。1幕で楽しそうに「俺たちが王だ」と歌い、好奇心から恋の火遊びとかいって危ないことしたり、人生好き勝手楽しんでいたのを見ると余計に、彼が争いに巻き込まれずにずっと好き勝手に生きていて欲しかったと思ってしまう。

 案外、殺されることもなく、死ぬことなく生きていることのほうがつらいんじゃなかろうか、と「どうやって伝えよう」を聞きながら胸を痛めた…。一人残されるベンヴォーリオ。何もしてないのにね…。何もなかったからこそ一人になっちゃった。ある意味一番の被害者。ベンヴォ―リオに幸あれ…。

 

 序盤の「憎しみ」で夫人たちが残された女の悲しみを歌っていた時点で、とんでもなくつらい気持ちになった。家のため、親の言うことを聞くしかなかった彼女たちが自由に好きに生きられる世界線を作ってあげて…。

 実の子じゃないと知っても、それでも大切にしてジュリエットの幸せを願っていたキャピレット卿。彼のその思いが報われて幸せな家庭を築く日が来ますように。

 

 シェイクスピアの悲劇って、どこかの視点から見れば案外悲劇じゃなくない?という話っていうイメージを持っているけど、ロミジュリだけは救いようなくどこから見ても悲劇でしかない。でも、モンタギュー家とキャピレット家の子孫という視点から考えれば、とてもきれいな争いの終着点なのかもしれないなと思った。長く続いた争いの最期は純真な愛だったって割と美しい話だよね。さすがシェイクスピア

 

 彼らの幸せを願ってしまうのは、演じていたキャストが素敵だったっていうのが大きいし、みんな素晴らしいのだけど、古川ロミオやばくないですか…?ロミオとして一番大切なものを持っていた。相手のいない世界に価値を見出せなくて死を選ぶほどロミオとジュリエットはお互いに惹かれあうけど、実際ちょこっと会って次にはプロポーズそして結婚っていう一目ぼれからのジェットコースターみたいな恋愛なわけですよ。そこに説得力を持たせるには、ジュリエットがほれ込んでしまうのも分かるというロミオの底抜けな魅力が必要。それを古川さんはさらっとやってのけていたのですよ…。こりゃ、ジュリエットも好きになるなという気持ちに自然とならせてくれたんですよ!すごい…。本当に。これは何度もロミオに抜擢されるわけだと思いましたね。

 

 あと、個人的にこのロミジュリの中で印象的なものはやっぱり「死」だと思う。幸せや希望の中に見え隠れする不穏な存在に「死」という役を与えて人が表現する。あんまり見ない表現な気がするけど、その効果は絶大で静かにたたずむ「死」の与える心をざわつかせるあの感覚はなかなかに面白い。エメで二人の幸せの絶頂を上から見下ろすような「死」と、神はまだお見捨てにならないと神父と乳母が歌う傍にふいと現れる「死」を見たとき、あの時の恐怖というか心のざわざわは恐ろしかった。「死」という役を考えた人、演出した人は天才だわ。大貫さんの「死」はしなやかでへばりつくような印象で、あの人関節どうなってるの⁉が率直な感想。それぐらい動きがしなやかだった…。宮尾さんの「死」はダイナミックで力強い印象。より恐怖感が増す感じ。やっぱりやる人によって全然違うんだなって感じた。

 

 200回記念公演ということで、一幕二幕でキャストが変わるという、一度で二度おいしいみたいな経験をしたわけですが、いくちゃんのジュリエットだけ見られなかったのが残念。人それぞれの解釈によって、かなり役の印象が変わるなという感覚を受けたのでぜひ今後も公演を続けてほしいなと思いました!